幸田真音さんに高橋是清を学ぶ
作家の幸田真音さんの講演会「高橋是清から学ぶアベノミクスの処方箋」へ行ってきました。たまたま、板谷敏彦さんの「日露戦争、資金調達の戦い 高橋是清と欧米バンカーたち」を読了したばかり。幸田さんも、高橋の小説「天佑なり」を上梓されたばかりで、高橋への思いを、わかりやすい語り口でしゃべられ、こちらも、理解が深まりました。
![]() | 天佑なり 上 高橋是清・百年前の日本国債 (2013/06/04) 幸田 真音 商品詳細を見る |
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講演会はコモンズ投信が主催したのですが、手作り感満載のイベントで、机をセッティングするときは、幸田さん自らが運ぶほど。幸田さんというと経歴からして、キャリアウーマン然した人かと思い込んでいたので、気さくな態度に好感をもちました。
さて、アベノミクスで高橋の脱デフレ政策が注目されています。英国でのサミットでは安倍首相が経済のスピーチのなかで、高橋について触れていました。しかし、高橋の偉業はほかにも数多くあり、中でも日露戦争は高橋がいなければ日本は負けていました。ある意味、東郷平八郎や乃木希典よりも、彼の方が功績があったといえます。
その高橋ですが、今では信じられない波乱万丈の人生を歩んでいます。幕末、絵師の私生児として生まれ、仙台藩の足軽に養子に出されます。利発だったため、米国留学に選ばれますが、そこで、騙されてサインしたことから、3年間奴隷として強制労働に。そのことから、欧米ではサインがいかに重視されるか自分の身にやきつけます。帰国後は英語がしゃべれることから、学生で入ったつもりがいつのまにか英語教師に転身。さらに、30代で日本の特許制度を築いて現代の特許庁長官になったと思うと、ペルーへ行って銀山を経営して無一文になります。そして、日銀では資材調達係として入り、現在の日銀の建物の建築などを担当したあと、優秀だったため銀行員として抜擢され、副総裁のときに日露戦争の戦費調達のため、ロンドン、ニューヨークへ派遣されます。
当時の日本は極東の新興国で、人口も、GDPもロシアの3分の1しかありませんでした。格付け会社なんてありませんが、ロシアに比べると信用が低いため、高利で発行しなければならず、しかも、戦争に負ければデフォルトの危険があるため、人気もありませんでした。それをどのように良い条件で発行し、完売させるか。欧米の一流銀行との丁々発止のやりとりは現在にも通じるものがあります。面白かったのが「噂で買って現実で売る」という格言ではないですが、日本がロシアにいくら局地的に勝利を収めても、なかなか価格が上昇しないこと。そのへんのマーケット心理とのかけひきも、今に通じるものがあります。
そして、その後は大蔵大臣、総理大臣を歴任して、最後に2・26事件の時に暗殺されます。
幸田さんは、もともと債券のセールスを担当され「日本国債」といった著書もあります。最近、高橋のデフレ脱却政策や直接引き受けのことが注目されていますが、経済学者ですら誤った発言をしており、本当のことをわかりやすく伝えたいというのが執筆の一因。高橋の孫をはじめとする関係者や当時の資料を丹念にあたられたそうです。高橋が豊富なエピソードを持っているだけに、逆にどのエピソードを削るか苦労したほど。それだけ調べただけあり、講演会では高橋の生涯について、思い入れ十分に話されました。執筆の裏話もたっぷり。
印象的だったのは高橋の孫に取材されたように、高橋是清というと大昔の人間という感じがしますが、現在に直接つながっていること。ここらへんは、「八重の桜」なんかもそうですが、近代史の面白いところですね。また、幸田さんは当時は政府に高橋のような市場を理解する(彼は証券会社に勤めていたこともあります)人がいたが、現在は学者はいても、マーケット心理がわかっている人がいないと嘆かれてもいました。藤巻さんはどうなるのかなあ。
ゲストに東短リサーチの加藤出チーフエコノミストが招かれ、幸田さんの講演を踏まえて、アベノミクス、黒田異次元緩和について説明されました。高橋も日銀引き受けは異例のことと理解しており、デフレを脱却すれば終了しようとしていました。しかし、それが気に食わない軍部に暗殺され、それ以降、軍事費は膨張し、戦争もあったため大インフレになりました。加藤さんは、出口戦略こそが重要であり、黒田緩和がうまくいったあと、このまま続けろという声をどうやって押さえ込むかが難しいとされました。「ホテルカリフォルニア政策」というそうです。
講演会は面白く2時間はあっという間に。もっと長時間お話を聞きたかったのに残念です。そうそう、残念といえば、どうでもいいのですが、講演会前に腹が減ったので松本楼で食べたのですが、ちょっと高め。会場の日比谷図書文化館のレストランのほうがはるかに安かったので、あとでわかってがっかりしました。
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さて、アベノミクスで高橋の脱デフレ政策が注目されています。英国でのサミットでは安倍首相が経済のスピーチのなかで、高橋について触れていました。しかし、高橋の偉業はほかにも数多くあり、中でも日露戦争は高橋がいなければ日本は負けていました。ある意味、東郷平八郎や乃木希典よりも、彼の方が功績があったといえます。
その高橋ですが、今では信じられない波乱万丈の人生を歩んでいます。幕末、絵師の私生児として生まれ、仙台藩の足軽に養子に出されます。利発だったため、米国留学に選ばれますが、そこで、騙されてサインしたことから、3年間奴隷として強制労働に。そのことから、欧米ではサインがいかに重視されるか自分の身にやきつけます。帰国後は英語がしゃべれることから、学生で入ったつもりがいつのまにか英語教師に転身。さらに、30代で日本の特許制度を築いて現代の特許庁長官になったと思うと、ペルーへ行って銀山を経営して無一文になります。そして、日銀では資材調達係として入り、現在の日銀の建物の建築などを担当したあと、優秀だったため銀行員として抜擢され、副総裁のときに日露戦争の戦費調達のため、ロンドン、ニューヨークへ派遣されます。
当時の日本は極東の新興国で、人口も、GDPもロシアの3分の1しかありませんでした。格付け会社なんてありませんが、ロシアに比べると信用が低いため、高利で発行しなければならず、しかも、戦争に負ければデフォルトの危険があるため、人気もありませんでした。それをどのように良い条件で発行し、完売させるか。欧米の一流銀行との丁々発止のやりとりは現在にも通じるものがあります。面白かったのが「噂で買って現実で売る」という格言ではないですが、日本がロシアにいくら局地的に勝利を収めても、なかなか価格が上昇しないこと。そのへんのマーケット心理とのかけひきも、今に通じるものがあります。
そして、その後は大蔵大臣、総理大臣を歴任して、最後に2・26事件の時に暗殺されます。
幸田さんは、もともと債券のセールスを担当され「日本国債」といった著書もあります。最近、高橋のデフレ脱却政策や直接引き受けのことが注目されていますが、経済学者ですら誤った発言をしており、本当のことをわかりやすく伝えたいというのが執筆の一因。高橋の孫をはじめとする関係者や当時の資料を丹念にあたられたそうです。高橋が豊富なエピソードを持っているだけに、逆にどのエピソードを削るか苦労したほど。それだけ調べただけあり、講演会では高橋の生涯について、思い入れ十分に話されました。執筆の裏話もたっぷり。
印象的だったのは高橋の孫に取材されたように、高橋是清というと大昔の人間という感じがしますが、現在に直接つながっていること。ここらへんは、「八重の桜」なんかもそうですが、近代史の面白いところですね。また、幸田さんは当時は政府に高橋のような市場を理解する(彼は証券会社に勤めていたこともあります)人がいたが、現在は学者はいても、マーケット心理がわかっている人がいないと嘆かれてもいました。藤巻さんはどうなるのかなあ。
ゲストに東短リサーチの加藤出チーフエコノミストが招かれ、幸田さんの講演を踏まえて、アベノミクス、黒田異次元緩和について説明されました。高橋も日銀引き受けは異例のことと理解しており、デフレを脱却すれば終了しようとしていました。しかし、それが気に食わない軍部に暗殺され、それ以降、軍事費は膨張し、戦争もあったため大インフレになりました。加藤さんは、出口戦略こそが重要であり、黒田緩和がうまくいったあと、このまま続けろという声をどうやって押さえ込むかが難しいとされました。「ホテルカリフォルニア政策」というそうです。
講演会は面白く2時間はあっという間に。もっと長時間お話を聞きたかったのに残念です。そうそう、残念といえば、どうでもいいのですが、講演会前に腹が減ったので松本楼で食べたのですが、ちょっと高め。会場の日比谷図書文化館のレストランのほうがはるかに安かったので、あとでわかってがっかりしました。
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