人間は機械に職を奪われるのか~【投資本52】タイラー・コーエン著 大格差
最近、欧米の論壇を賑わせている問題に、ロボットやコンピューターなど機械が人間の雇用を奪うのかというものがあります。今月も、イギリスのホーキング博士が「完全なる人工知能は人類に終わりを告げる恐れがある」 と表明したとか。http://bylines.news.yahoo.co.jp/kimuramasato/20141205-00041229/ 本著はアメリカの著名な経済学者が、この問題に真正面から取り組んだもので、結論は大部分の人にとっては未来は暗いものです。


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コーエンはコンピューター技術の発展は今後も続き、その結果、人間は二極化するとみています。得意のチェスを例に上げ、機械をうまく使わなければ、チェスの世界的なチャンピオンですら、チェスの知識がないけどコンピューターを使いこなす相手に勝てないとしており、今後はさまざまな分野でこういった現象が起きるとのこと。例えば科学研究の分野では「人間は科学的進歩の推進役というよりも、(機械の)召使のような存在になる」としています。
その結果、コンピューターとうまく共同作業ができる10%~15%の人間と、それ以外の大部分に分かれてしまいます。そして、前者には莫大な富が集中し、後者はろくな場所に住めないような貧しい生活に陥ると予測しています。前者に入ろうとして、世界中で才能をもった若者がものすごい努力をします。普通の人というのはもはやありえず、才能と努力がない人はみな下層階級に転落します。教育、医療、福祉、政府の財政赤字、あらゆる分野にこうした影響がでます。
アメリカでは既にその予兆がでており、株価が過去最高になっているのに、労働参加率は2000年をピークに下落しつづけ、今では1980年ころの水準(女性がまだ社会に本格的に進出していないころ)になっています。しかも、多くの若者たちが、定職を得るのをあきらめ(あきらめるから失業率にはカウントされない)、ブラブラしている。
では将来、下層階級はどうなるのか。ニューヨーク、サンフランシスコといった都会では家賃が払えないため、メキシコ国境のスラムのような場所に住み、食べ物もコストパフォーマンスの良い煮豆とか。医療も政府の財政難から貧困層向けのものは打ち切られるため、ろくなものが得られなくなります。ただし、何十年かすれば、娯楽などが安価に提供されるとともに、社会が高齢化するため、奇妙に平穏な時代が訪れるとしています。
コーエンの想定する世の中は、才能と努力を持った人は生まれなどに関係なく大金持ちになる可能性が高いため、ある意味平等なのかもしれません。でも、大部分の人にとっては、不幸な時代になります。こうした時代は割りと近い将来に起きそうで、オックスフォード大の研究グループによれば、2030年にはホワイトカラーの半分は失職するとか。
コーエンは経済学者なのに触れてませんでしたが、大部分の一般人がこれに対抗するには、資産をためるしかないのでは、というのが感想。僕はいまさらコンピューターを操れるだけの才能も努力もないので、あと15年の間に、自分と家族が暮らせるだけの資産を持てるかどうかが、人生の大きな分かれ目になりそうです。特に、自分は貧しくても平気だけど、子供にこんな苦労はさせたくない。
もちろん、コーエンの想定する世界はこないかもしれません。でも、彼以外にも、オックスフォード、MITなど世界のトップクラスの知性がこうした事態を予測している以上、リスクとして覚悟しなければなりません。少なくとも現役世代や子供、孫がいる人には本書を読んで対応を考えなければならない必読の書といえましょう。
内容 ★★★★★
読みやすさ ★★★★★
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